犬が星見た 武田百合子
9日のモスクワ赤の広場で、対ドイツ戦勝70周年軍事パレードがあった。
プーチンは、本気だった。
2011年から10年間に52兆円かけて兵器を近代化している途上なのだ。
無人砲塔の新型戦車アルマタ。米国ミサイル防衛を突破するヤルス。戦略爆撃機B1に対抗するツポレフ160。
あと、マルクスとレーニンの巨大肖像画と林立する赤旗があれば、まごうかたなきソビエト社会主義共和国連邦時代。
15の共和国の連邦は、1991年まで続いた。
これ大文字の歴史。
旅をすれば、国は小文字で書くことになる。「犬が星見た」中公文庫刊。 武田泰淳の妻・百合子さんは1969年ソ連を旅行し、熟成させて10年後に刊行した。
・星など見えはしないのかもしれないが、そうとしか思えない格好をしている犬を見かける。
・・・野良犬なのか、とき放された飼い犬なのか、ビクターの犬そっくりに坐って、頭をかしげ、ふしぎそうに星空を見上げて動かない。
同行した夫・武田泰淳、その友人・竹内好すでに亡く、2人は無明の宇宙を回遊している。それを見上げる「私」はビクター犬。
そもそもソ連をみつめる姿勢もビクター犬だ。知識に頼らない目で書く。
モノクロ写真のアルバムをめくりながら、百合子さんの説明を聞いてる感じ。
・私は銭高老人を日増しに好きになってゆく。
同行者の銭高老人80歳。
うしろ手を組んで、うつ向き加減に歩きながら一人、「ああ、おもしろ」とつぶやく。・・・ほんとは、どんなこともちっとも面白くなんかないのかもしれない。