東京都セレブ区福祉部 山谷哲夫

オンブズマンって、とんと聞かなくなった。

「東京都セレブ区福祉部」現代書館刊。

1999年から15年間、渋谷区でオンブズマン行政監視人をやった山谷哲夫さんの記録。役所告発本という単純なものじゃない。

役人を監視するんだから、軋轢がある。あっても15年続いたのは、信頼しあえる相手もいたということだ。

セレブ区って、千代田・中央・港区じゃないの? 渋谷区がセレブとは思えないが、固定資産税や事業税で稼いでいるからなのか。

第1部の「セレブ区福祉部の現場から」が衝撃だった。

優秀な新人を、福祉や税務の部署に配置する。生活保護受給者、孤独死、高齢者虐待、老後破産、保険料滞納という現実で鍛える。

と言葉で書いてもダメ。

匂う人、ウジがわく死体を相手にすると言ったほうが具体的。

ハチ公や外国人名所になった駅前スクランブル交差点 = 渋谷。クリエイティブ = 渋谷。その他、=渋谷からすっぽり抜け落ちた現場を案内された。

職員たちの通称「裏渋谷・暗渠通り」。裏原宿じゃないよ。

本町4〜5丁目、幡ヶ谷3丁目。地図を見た。中野区境に沿った地域。

新人たちは税金・保険料未納者を訪れる。徒労に終わる。「西原、上原、大山町に金持ちがいっぱいいるだろ」と罵声を浴びる。

甲州街道をはさんで、北の貧・南の富とハッキリ分かれているのだった。

ニューヨークで芸術監督をやっている塩谷陽子さんによれば、開発を官主導でやるのが日本。民が動くのがアメリカ。

まずアーティストがうらぶれた町に住み、彼らを狙ってちょっと楽しげな町に変化する。

次に、スタイルにこだわりのある小金持が引っ越してくる。

最後にファンドやディベロッパーが古いビルを壊して、モールやマンションを建てる。

これで、地価100倍。渋谷区職員、考えてみたら。