嘘から出たまこと バルガス・ジョサ
バルガス・リョサじゃないの? ジョサが正しいの?
Vargas Llosaとあった。リョと読んでもジョと言おうと、つづりはユダヤ/ジューと同じでJから始まると思っていたが、Lだった。
ペルーの小説家。ラテンアメリカ文学ビギナーの僕でも、名前だけは知っている。
いきなり暗黒に放り込まれる恐さがあるから、なかなか小説に手が出ない。バルガス・ジョサものも、まずは評論から。
「嘘から出たまこと」現代企画室刊。ご丁寧に、奥付けには第1刷1200部と印刷してある。いたいけな数字だ。
小説を称して、嘘から出たまことだと言う。スペイン語にも、そういう慣用句があるのか。
ちなみに原題はLa verdad de las mentirasと書かれてる。
バルガス・ジョサはペルー生まれ。マドリッド、パリと住む場所を変え、かつ合間に本と一緒に旅をした。
1902年ジョゼフ・コンラッド「闇の奥」から、1994年アントニオ・タブッキ「供述によるとペレイラは・・・」まで、36冊の文芸評論集。
彼がいつ・どこで原稿を書いたか、それぞれ文末に記録が残っている。
100年間に世界で書かれた文学を、世界のあちこちを旅しながら読んで書いた。
人間の共通と差異を考える。
お国柄ということは、あるだろう。時代性も考えられる。でも、小説というのはあくまで個人の発露なんだ。
ジョイス「ダブリン市民」のような灰色の町でなかった、ダブリン。フォークナー「サンクチュアリ」はアイロニーたっぷりのタイトル。
30歳になっちゃったナボコフ「ロリータ」って、想像できる? 映画になったランペドゥーサ「山猫」の懐古。
まずいよなぁ、好み近似だから一つ一つ誘惑される。
嘘が、真実を極める道具となる小説。
・怪物はいつも人間の内奥で息を潜めて出番を待ち、欲望の法則を解き放つ瞬間が来たとみるや、合理的生活や共存、さらに人間の存在自体を脅かす。
どう言えばいいのかわからない、潜在する怪物。奥深くから取り出してみせる文学者。
「もしかして、こういうモノ?」。
こわいもの見たさで、あるいは自分の特殊感が輪郭をもつ納得感で小説は読まれる。
急がなくていい。時間をかけて読んでいきたい。