下山事件 森達也
乳幼児は、どのくらいの頻度で病気になるのか?
「孫部」活動を始めて、ほぼ半年経った。
冬にノロウィルスに感染した記憶がある。立ったまま道路で嘔吐し、苦しさに泣き出した。どうしてよいかわからず、あわてた。
あれから半年、今度は風邪だ。一人前に咳をする。
「痰が出るけど、それを飲んじゃう」と、母親は心配顔で2歳児を僕に預けて仕事場へ向かう。
困った。どこへ連れてきゃいいのか。とにかく安静にできるところ。
あてなく地下鉄に乗り、降りる。「そうだ、図書館なら静かだ」と、青山一丁目駅下車。本を借りるためでなく、孫を寝せるためになじみの赤坂図書館へ。
ここには、乳幼児図書の区画がある。
別に読み聞かせ専用の部屋もある。靴を脱いで、ということは寝転がれるということだ。
タオルをかけ、布団がわりにダウンベストもかけてやる。枕が無い。しょうがないから、用意した紙おむつ2枚を重ねて代用する。
熱があるのに、コロッと寝付いてくれない。添い寝の要領がわからない。
やっと寝息をたてる。しばらく上下するお腹を見ていた。
そのうち退屈する。
なんだかね、孫が元気ないと伝染してこっちもしおれてくる。書架の間を散歩しても、ウロンだ。
文庫の棚に来た。ハードカバーじゃなければ、読めるかな。
「暁斎百鬼画談」ちくま学芸文庫刊を確保。も一つ「下山事件」新潮文庫も。
映画監督の井筒和幸さんが、仲間の森さんに男を紹介した。中華料理を食べながら、男は「祖父が下山事件に関係あったらしい」と始めた。
昭和24年7月のミステリー。未だ落着していない。
そうか、僕は2歳だったのだ。隣に2歳の寝姿を見ながら、タイムアップ。続きは、借り出して読もう。