イベリコ豚を買いに 野地秩嘉
野地秩嘉さんは、高倉健やポール・マッカートニーのインタビューを成功させたノンフィクション作家。
食べもの、海外もの、企業もの、美術ものも書く。
イベリコ豚に興味を持ったのは、食べものや海外もの取材の延長からだろうか。
彼が関心を持った時、日本では口蹄疫騒動が発生した。
スペインから見たら、宮崎だろうが東京だろうが日本は日本。日本人が現地牧場を取材するなんて、もってのほか。
「だったら買い付けと言えば、現地を見られるだろう」と、発想をコペルニクス的に回転する。
「イベリコ豚を買いに」小学館刊。
イベリコ豚を見に、じゃない。
なまじ企業ものを取材してきたから、自らビジネスをしてみたいと頭によぎったか。ついでに、プラド美術館でゴヤの絵も見よう。
本は、豚肉商人になってハムを販売した顛末A to Zがある。次の年もやるかどうかは、わからない。
町工場をやりながら文章を書き続ける人もいるのだから、豚肉ビジネスマンやりながら文章を続けてほしい。
ところで、ゴヤの「砂に埋もれた犬」なる絵。
初めて見た時、犬の目には希望と諦めがあると感じていた。
日本ですべてが終わり、改めてスペインに渡ってプラド美術館に寄った。また「砂に埋もれた犬」の前に立つ。
首まで砂に埋まっている犬。よく見ると、前足後足を懸命に動かしているではないか。他人の視線などどうでもいい。
商売経験で悲壮感は無い。高揚感はあった。俺も犬と一緒だ。