上高地漫歩記・その2は画家

河童橋のたもとに、12号くらいのキャンバスが立てかけてあったので、見てました。

油絵。赤とオレンジ色が強烈。観光地上高地の中心・河童橋で絵を描くとは。度胸に驚く。どんな人だろう?

しばらくすると、赤いズボンに下駄の音を橋に響かせて作者登場。

いったい、どれくらいの人が訪れるかといえば、4月下旬の開山から11月上旬の閉山まで約半年間に、毎年250万人。河童橋は、1日6000人が通過する。

山手線のへたな駅より、多いんじゃないか?

渡辺勝夫さん、73歳。

これだけ繁華なところで描いてる。ということは、全国に「あぁ、あの人」と思い出す人がいるということ。

20歳の時、姉の子供が使っていたノートの表紙を見て、「世界は広いなぁ」とつぶやいたら、「これは、日本の上高地だ」と言われてから、通い出す。

渡辺さんの話は、よく聞き取れないところもあります。でも整理すれば、それがキッカケで、本日まで、毎年通って53年間になる。

執念とか鬼気迫る感じはしない。むしろ、飄々としている。そうでなけりゃ、自然とは対峙できないのかもしれない。

出会いは、夕方でした。「今日は、もうおしまい」。

イーゼルを片付けるのも、一苦労。なにしろ、風が強いので、足元は杭を打って紐でしばってある。イーゼルとキャンバスも、ガムテープで固定してある。

歩いて3分の「家」に同行する。

なにしろ、長ければ3ヶ月滞在するので、旅館・ホテルには泊まらない。1泊700円のキャンプサイトに、大型テントを張って暮らす。

何やってる人だろうと、誰でも思うでしょ?

自動車の板金・塗装職人でした。今では、息子さんが家業を継いでいるので、心置きなく絵三昧。

「パテで塗料を塗るのは、板金も油絵も変わりない」。言うことが豪快です。美学校出の絵描きが聞いたら卒倒しそうなことを、ヘラっともらす。

テントの前に飾ってある絵も、キャスターの上。「このキャスターも、溶接して作った」と、どこまでも自前主義でした。しばし、絵をみる。

写真で、自然を再現するのは難しい。絵なら、再現可能。壮大さが絵から感じ取れる。

梓川の色や水の勢い。季節で変わる空や雲。山肌の光と影。樹木の遠近。草の勢いと枯れ具合。

再現できるのは、本人が、自然と対話しているから。 This Is What You Are

1960年の当初からではありません。もちろん。油絵の前は、鉛筆や水彩をやっていた。描いても描いても、「他もあるだろう」と、自然に語りかける。

同じ風景が無いってことは、少しずつわかりかけていました。

淹れてくれた、お茶がおいしい。

「絵は、毎日描いたほうがいいね」と、実践論。そうだよねぇ。毎日描いて、初めて見えてくる。わかっちゃいるんです。

テント屋敷から、ファイルを持参。全国・外国から寄せられた手紙を見る。どれも、愛情と敬意があふれている。

〒390−1516 長野県松本市上高地 渡辺勝夫様 これで、彼のところに届く。すごいでしょ?

DVDももらいました。

千葉県旭市にある、実家の板金工場で開催した個展の様子。

キョロキョロしなくていい。飽きないし、同じ絵は一枚もないと、キャンバスが語ってました。見習わないと。